この記事は、社員30〜100名ほどの中小企業の社長・DX担当者の、「AIの活用事例を業種別に調べても、大企業の話や自社と違う業種の話ばかりで、うちの会社では何から始めればいいのか分からない」という困りごとを解決するために、私がこれまで400社・4,000人の研修で見てきたことをまとめたものです。
結論:中小企業のAI活用は、「自社の業種の事例」を探すより、「自社の業務」を四角と矢印で書き出すところから始めると進みます。業種が違っても、時間を取られている業務は「書く(記録・報告)」「移す(転記・入力)」「突き合わせる(照合)」「探す(検索)」の4つの形にほぼ集まり、解決策も「ワークフロー自動化」「AIエージェント」「コーディングエージェントで自社ツールを作る」の3つから選ぶ点は同じです。業種によって大きく変わるのは、患者さんや顧問先・スタッフの個人情報を「どの環境で扱うか」です。
私が研修の前の面談でよく聞かれるのが「うちの業種でのAI活用事例はありますか」という質問です。私の答えはいつも同じで、「何業かは関係ありません。業務の流れを書き出して、困っているところを自動化します」です。工務店で見積を変えたいなら見積を、FAXが大変ならFAXを、介護記録が大変なら記録を自動化します。この記事では、その考え方と共通の進め方を説明したうえで、製造業・建設業・介護・クリニック・不動産・士業・物流など10業種に当てはめた記事へ案内します。自社に近い業種から読んでください。
業種別のAI活用事例が「うちには関係ない」と感じる理由
「AI 活用事例 業種別」で調べると、製造業ならカメラで不良品を見分ける外観検査、建設業なら図面や現場の監視、医療なら画像診断といった事例がよく出てきます。どれも本当の事例ですが、多くは大きな会社が専用の設備やシステムに投資した話で、社員30〜100名の会社がそのまま真似できるものではありません。
一方で、中小企業の現場で実際に時間を取られているのは、そうした本業の真ん中ではなく、その周りの事務です。現場の写真を整理して報告書にする、FAXで届いた注文を打ち直す、入金データと台帳を突き合わせる、過去の見積を探す。こうした作業は業種の名前で検索しても事例が出てきにくいのに、一番すぐに効果が出るところです。
もう1つの理由は、困りごとを一番よく知っているのは、外の会社ではなくその業務をしている本人だということです。介護の現場で何に困っているかは、私たちではなく介護の仕事をしている方が一番知っています。病院でいえば、どこが痛いかは患者さんが持ってきて、私たちはそれを治す役割です。だから、業種の事例集から答えを探すより、自社の困りごとを書き出す方が早く進みます。
困りごとは、業種が違っても同じ形をしている
ホリエモンAI学校では、受講企業と「困りごとリスト」を共有し、社員の方に自分の業務で面倒なこと・変えたいことを書いてもらっています。製造・建設・介護・医療・小売・不動産・士業・物流・人材など、さまざまな業種から集まった困りごとのうち1,705件を似たものどうしでまとめると、上位は次のようになりました。
| 順位 | 困りごと | 件数 |
|---|---|---|
| 1 | 議事録づくりに時間がかかる | 51件 |
| 2 | データ集計・実績表・レポート化に手間がかかる | 46件 |
| 3 | 社内の資料・情報が探しにくい | 44件 |
| 4 | 見積書の作成・チェック・送付に時間がかかる | 42件 |
| 5 | AIツールの使い方・指示の出し方が分からない | 35件 |
| 6 | 手書き・紙・PDFの内容をデータ入力している | 35件 |
| 7 | 日報・日誌・作業記録の入力に時間がかかる | 32件 |
| 8 | 社内の周知・連絡・申し送りが伝わらない/埋もれる | 31件 |
どれも特定の業種だけの悩みではありません。見積は製造業にも工務店にも設備工事会社にもあり、紙の転記は小売・卸のFAX注文にも、クリニックの問診票にも、運送会社の配送依頼にもあります。並べてみると、業種ごとの困りごとは、ほとんどが次の4つの形のどれかです。
- 書く:日報・作業報告・介護記録・議事録など、あとで誰かが読む記録を作る
- 移す:紙・FAX・PDF・メールの内容を、台帳やシステムに打ち直す
- 突き合わせる:入金と請求、勤怠と給与、注文と在庫など、2つのデータを照らし合わせる
- 探す:過去の見積・図面・マニュアル・ノウハウを、毎回だれかに聞いて探す
形が同じなので、解き方も同じになります。これが、私が「業種は関係ない」と言っている理由です。
どの業種でも同じ、AI活用の3ステップ
私たちが研修でどの業種の会社にもお願いしているのは、次の3つです。
- 業務を四角と矢印で書き出す:「依頼が届く → 内容を確認する → 台帳に入力する → 担当者に連絡する」のように、1つの仕事の流れを、作業を四角、受け渡しを矢印にして書きます。紙とペンで十分です。
- 面倒な作業を5つ挙げる:書き出した流れの中で、時間がかかる・面倒・その人にしかできない作業を箇条書きで5つ挙げます。書けない社員には、上司が「普段どんな仕事をしていますか」「面倒な仕事を5つ教えてください」と聞き取れば十分です。
- 3つの解決策から選ぶ:5つの作業を1つずつ、下の3つのどれで解決するか決めます。
| 解決策 | 向いている作業 | どの業種にもある例 |
|---|---|---|
| ワークフロー自動化 | 毎回同じ手順で、判断が要らない作業 | フォームやメールが届いたら台帳に登録して担当者に通知する/期限の前日に自動で知らせる |
| AIエージェント | 文章や資料を読む・探す・まとめる・判断する作業 | 紙やPDFを読み取って入力の下書きを作る/話した内容を日報や記録の文章に整える/過去資料から似た案件を探す |
| コーディングエージェントで自社ツール作成 | 既存のツールでは自社のやり方に合わない作業 | 紙の作業記録をスマホで入力できる社内ツールにする/条件の多いシフト表や配車表を自動で組む画面を作る |
どれを選ぶかは、主に3つの観点で決めます。1つ目は頻度で、一度きりの作業ならAIエージェントに1回やってもらえば済みます。2つ目は判断の要否で、毎回同じ手順なら、AIを使わずワークフロー自動化で十分です。3つ目は会社が使っているツールの「派閥」(Microsoft・Google・ChatGPT・Claudeなど)で、使える道具がそこで決まります。AIを使うこと自体を目的にしないことが大切です。
業種別「最初の1つ」早見表
10業種それぞれの記事で、最初に手をつけるとよい作業を選んでいます。並べると、業種は違っても、選んでいるのは「回数が多く、判断が少ない、書く・移す・突き合わせる・探す」作業だと分かります。
| 業種 | 時間を取られやすい業務 | 最初の1つの例 | 形 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 見積・受発注・日報・図面や過去資料の検索 | 過去の見積・図面を探してまとめる | 探す |
| 建設業・工務店 | 工事写真の整理と報告書・外回りの日報・見積 | 工事写真の整理と完了報告 | 書く |
| 電気・設備工事 | 現場と事務所の間の写真・作業報告・点検報告書・見積 | 作業報告をスマホに話すだけにする | 書く |
| 介護・福祉 | シフト作成・介護記録・送迎 | 条件を表にしてシフト案を作る | 突き合わせる |
| クリニック | 問診票の転記・カルテや書類づくり・院内事務 | 紙の問診票の転記 | 移す |
| 小売・卸 | 受注・発注・在庫・売上予測 | FAX・電話注文の受注入力 | 移す |
| 不動産 | 家賃の入金照合・物件の問い合わせ・契約書類チェック | 銀行の入金データと家賃台帳の照合 | 突き合わせる |
| 税理士・社労士事務所 | 顧問先ごとの回収・入力・照合・問い合わせ | 顧問先への資料の回収・催促 | 移す |
| 物流・運送 | 配送依頼の転記・配車表づくり・ドライバー日報 | 配送依頼を配車表に載せるまでの転記 | 移す |
| 人材派遣 | 応募対応の連絡と転記・勤怠から給与と請求を作る照合 | 応募連絡と転記、または月末の勤怠照合 | 突き合わせる |
10業種のAI活用:詳しい進め方
ここからは、各業種の記事を4つのグループに分けて紹介します。どの記事も、その業種の業務を四角と矢印で書き出した例と、3つの解決策の選び方、他社の公開事例を載せています。
現場とものづくり:製造業・建設業・設備工事
現場で手を動かす人と、事務所で書類を整える人が分かれている業種です。困りごとは「現場と事務所の間」に集まり、記録の入口をスマホと音声に変えると転記そのものがなくなります。
📌「製造業のAI活用事例|中小メーカーは見積・日報・図面探しから始める」
外観検査や予知保全より先に、見積・受発注・日報・図面探しから始める理由と、見積業務の書き出し例を紹介しています。「あの人しか分からないExcel」をAIに読ませて手順書にする方法も解説しています。
📌「建設業・工務店のAI活用事例|現場の書類・写真・日報・見積から始める」
工事写真の整理と完了報告、外回りの日報、見積といった「現場が終わったあとの事務」の減らし方をまとめています。協力会社が紙のままでも、自社の中だけでデジタル化する流れを組めます。
📌「電気・設備工事のAI活用|現場と事務所の「写真・報告書・見積」の往復を減らす進め方」
点検・修理1件の流れを書き出し、職人さんに文字を打たせずにスマホに話すだけで作業報告を作る考え方を説明しています。紙やFAXは8〜9割の自動化で割り切る判断も紹介しています。
医療・介護:介護施設・クリニック
利用者さんや患者さんの情報を扱うため、「AIは使えない」と止まりやすい業種です。個人情報を扱う作業と扱わない作業に仕分けると、今日から始められることが見えてきます。
📌「介護施設のシフト作成をAIで自動化する方法|Geminiで条件を守ったシフト案を作る3ステップ」
資格・夜勤の可否・希望休・組ませない組み合わせを表にして、GeminiのGemでシフト案の作成とチェックを分ける手順です。シフト作りに何日もかかり、1人にしか組めない状態を解消します。
📌「クリニックのAI活用|患者情報を守りながら問診・カルテ・事務の手間を減らす進め方」
業務を「患者情報あり・なし」で仕分け、院内マニュアルや求人は普段使いのAIで、問診からカルテの下書きは院内だけで動くローカルLLMで行う進め方を説明しています。
店舗・不動産・士業:小売・卸、不動産、税理士・社労士事務所
お金とお客様のデータが毎日・毎月くり返し動く業種です。注文の打ち直し、入金の照合、資料の回収といった「回数が多く判断が少ない」作業から手をつけると、効果が分かりやすく出ます。
📌「小売業・卸売業のAI活用|受発注・在庫・売上予測の困りごとから始める進め方」
受注・発注・在庫・売上予測の業務の書き出し方と、FAX・電話注文の自動化を「80〜90%でいい」と割り切る考え方を、他社の公開事例とあわせて紹介しています。
📌「不動産会社のAI活用|家賃の入金照合・物件問い合わせ・重説チェックの手間を減らす進め方」
最初の1つとして家賃の入金照合をすすめる理由と、物件の問い合わせは一次対応まで、重要事項説明書は下書きと見落とし探しまでをAIに任せる線引きを説明しています。
📌「税理士事務所・社労士事務所のAI活用|顧問先ごとに毎月くり返す回収・入力・照合・問い合わせを減らす進め方」
顧問先1社ごとの毎月の作業を「回収・入力・照合・問い合わせ」の4つに分け、守秘義務を前提に、顧問先の情報をどの環境で扱うかを先に決める進め方です。
物流・人材:運送会社・人材派遣会社
配車やマッチングのように、ベテランの頭の中にある条件で仕事が回っている業種です。いきなりシステムを選ばず、その条件を文字に書き出すことが最初の一歩になります。
📌「中小の物流・運送会社のAI活用|配車表づくり・FAXの配送依頼・ドライバー日報の手間を減らす進め方」
配送依頼を受けて配車表に載せるまでの転記から始める理由と、ドライバーの日報を話すだけにする方法、配車の条件を書き出してから自動化する順番を説明しています。
📌「人材派遣会社のAI活用|応募対応の転記・勤怠から給与と請求を作る照合を減らす進め方」
派遣スタッフと派遣先という「相手が2人いる」仕事の流れを書き出し、応募対応の連絡と転記、月末の勤怠照合を減らす進め方です。スタッフの個人情報をどこまでAIに入れるかの決め方も扱っています。
業種によって変わるのは「情報をどこで扱うか」
進め方は業種で変わりませんが、1つだけ業種によって大きく変わることがあります。それは、扱う情報をどの環境のAIに入れてよいかです。
たとえば医療機関では、患者さんの情報を一般的なクラウドのAI(ChatGPT、Claude、Geminiなど)に入れること自体がNGだと考えられていることが多く、私のところにも、院内のパソコンやサーバーだけで動く「ローカルLLM」を作って、問診の内容をカルテに入れたいという相談がとても多く寄せられます。税理士・社労士事務所の顧問先の情報や、人材派遣会社のスタッフの個人情報も同じで、先に「どの作業で、どの情報を、どの環境で扱うか」を決めないと、AI活用はそこで止まってしまいます。
おすすめの順番は、まず個人情報を使わない作業(マニュアル、案内文、求人原稿、社内の資料探しなど)から普段使いのAIで始め、個人情報を扱う作業は、社内の規程と契約・設定を確かめてから、必要に応じて外にデータを出さない環境で行うことです。
自社の業種がこの10本に無い場合
飲食、美容、教育、IT、広告など、この10本に無い業種の方も、やることは同じです。社員に自分の1週間の仕事を四角と矢印で書いてもらい、面倒な作業を5つ挙げ、それを「書く・移す・突き合わせる・探す」のどれに当たるかで分けてください。上の10本のうち、同じ形の作業を扱っている記事が、そのまま参考になります。たとえば、紙やFAXの打ち直しが多いなら小売・卸やクリニックの記事、記録や報告が多いなら設備工事や建設業の記事が近いはずです。
📌「中小企業のAI導入でよくある課題と失敗|検討・試作・本番の3段階で止まる7つの壁と越え方」
業種を問わず、AI導入が検討・試作・本番のどこで止まりやすいかと、その越え方をまとめています。
よくある質問
業種特化のAIツールを選んだ方がいいですか?
そのツールで自社の困りごとが解決するなら、選んで構いません。ただ、業種向けのツールは「そのツールの中の作業」が中心なので、ツールに入れる前の転記や、ツールとツールの間の照合のような作業は残りがちです。先に業務を書き出し、残った作業を3つの解決策で埋める順番がおすすめです。
自社の業種のAI活用事例が見つからない場合はどうすればいいですか?
業種の名前ではなく、困っている作業の名前で探してください。「FAX 注文 自動化」「入金 照合 自動化」「日報 音声入力」のように作業で探すと、違う業種の事例でも自社に使えるものが見つかります。この記事の早見表の「形」の列も手がかりになります。
社員30名ほどの会社でも、業種別のAI活用はできますか?
できます。人数が少ない会社ほど、1人に定型作業が集中しているので、1つ自動化したときの効果が大きくなります。全部を一度に変えようとせず、回数が一番多い作業を1つだけ選び、1か月使ってから広げてください。
まとめ:事例を探す前に、自社の業務を書き出す
業種別のAI活用事例は、ヒントにはなりますが、答えにはなりません。中小企業のAI活用で成果が出るのは、自社の業務を四角と矢印で書き出し、「書く・移す・突き合わせる・探す」作業の中から回数の多いものを1つ選び、ワークフロー自動化・AIエージェント・コーディングエージェントの3つから解決策を選んだときです。業種によって変わるのは、個人情報をどの環境で扱うかだけです。
「業務の書き出しまではできたが、どれをどの方法で自動化すればいいか判断できない」「個人情報を扱う業務をどの環境で進めればいいか決められない」という場合は、ご相談ください。ホリエモンAI学校の法人プランでは、受講企業と困りごとリストを共有し、社員の方が自分の業務の困りごとを解決するところまで伴走します。