この記事は、取引先から届くExcelやPDF、問い合わせや申込のメールを開いては、数字や名前を自社の表にコピーして貼り付ける作業に毎日・毎月の時間を取られている中小企業の社長・事務担当の方の、「単純作業なのに時間がかかり、写し間違いも怖い」という困りごとを解決するために、私がこれまで400社・4,000人の研修で見てきたことをまとめたものです。
結論:転記の解決策は「データがどんな形で届くか」で3つに分かれます。ExcelやCSVなど表で届くものはAIを使わずExcelの機能や自動化ツールで写し、PDFや画像で届くものはAIで読み取ってから合計や件数で検算し、メールやフォームで届くものは入口を自社のフォームに変えて転記そのものをなくします。どの場合も、AIに数字を写させっぱなしにせず、「読み取りはAI、計算と照合はExcelか仕組み、最後の確認は人」と分けるのが、写し間違いを増やさずに手間を減らすコツです。
📌ほかの困りごとも含めた全体像は「AIで業務の困りごとを解決する方法|受講企業に多い10の困りごと別ガイド」で、困りごとに共通する5つのルールと早見表をまとめています。
「転記が手間」という相談は26件。届き方で4つに分かれる
ホリエモンAI学校では、受講企業の社員の方に「困りごとリスト」を書いてもらっています。集まった1,705件を似たもの同士でまとめると、「Excel・PDF・メールのデータを手で転記している」は26件で、98種類の困りごとの中で17番目に多いものでした。
26件を一つずつ読み、「転記のもとになるデータが、どんな形で届いているか」で分けると、次の4つになります。
| 転記元の形 | 件数 | 実際に書かれていた声(例) |
|---|---|---|
| ① Excel・CSV・システムの表 | 7件 | Excel間の転記作業が手間/決済データのExcel転記が手間/CSVの必要項目だけを自動転記したい/予定表のデータを手打ちで転記している |
| ② PDF・画像 | 6件 | PDFからExcelへ転記している/取引先の見積書を基幹に転記する手間/複数PDFの金額をExcelにまとめたい/画像をExcelへ自動転記したい |
| ③ メール本文・申込フォーム | 7件 | 問い合わせメールをスプシへ転記/メール申込をスプレッドシートへ転記している/メールの依頼内容を表にまとめたい/フォーム入力をExcelに自動転記したい |
| ④ 何から何へかが書かれていない | 6件 | 単純なデータ転記に時間がかかる(2件)/データの転記に手間がかかる/資産登録を一件ずつ手入力している/管理システムへの入力が手作業 |
出典:ホリエモンAI学校の受講企業が記入した困りごとリスト(1,705件を98種類にまとめた社内集計、2026年10月時点)。分け方は筆者によるものです。
①〜③は、届き方によって使う道具がまったく違います。表で届くデータは、すでにパソコンが読める形になっているので、AIを使うまでもなく写せます。PDFや画像は、まず「読む」作業が要ります。メールや申込は、そもそも自社で入口を用意すれば転記が要らなくなります。「転記をAIで自動化したい」とひとまとめにせず、まず自社の転記がどの形かを分けることが最初の一歩です。④の6件は、何から何へ写しているかがまだ言葉になっていない状態なので、次の分解から始めます。
なお、紙や手書きの書類を打ち直している場合は「手書き・紙の書類のデータ入力をAIで減らす方法」、自社で使っているシステム同士の入れ直しは「ツール・システム間のデータ連携を自動化する方法」で詳しく書いています。この記事は、社外から届くExcel・PDF・メールを自社の表へ写す作業に絞っています。
転記を四角と矢印に分解すると、時間が消えているのは「探す」と「確かめる」
私たちの研修では、困りごとを解決する前に、その業務を四角と矢印で書き出してもらいます。取引先から届くPDFの数字を自社のExcelに写す作業なら、たとえば次のようになります。
- 届く:取引先からメールで見積書や明細のPDFが届く
- 開く:メールを開き、添付ファイルを保存して開く
- 探す:PDFの中から、写すべき数字(品名・数量・金額・日付)を探す
- 写す:コピーして、自社のExcelの決まった列に貼り付ける
- 確かめる:桁や行のずれがないか、元のPDFと見比べる
- しまう:PDFを決まったフォルダに名前を付けて保存する
書き出してみると、手間の大半は「写す」そのものではなく、取引先ごとに場所が違う数字を「探す」ことと、写し間違いを恐れて何度も「確かめる」ことにあると分かります。逆に言えば、探す手間を消すには「届く形をそろえる」、確かめる手間を消すには「機械に照合させる」のが効きます。AIが役に立つのは、主に「探す」の部分です。
届き方別:転記をなくす3つの方法
① Excel・CSVで届くもの:AIは使わず、Excelの機能か自動化ツールで写す
ExcelやCSV、決済サービスや予約システムから出力した表は、すでに行と列に整っています。ここでAIに「この表を読んで、こっちの表に写して」と頼む必要はありません。AIは文章を作る道具なので、何百行もの数字を写させると、まれに行を飛ばしたり数字を変えたりします。
表から表への転記は、Excelの「データの取得と変換(Power Query)」や関数、マクロで、毎回同じ手順で写すのが確実です。ただ、関数やマクロが分からないから手で写している、という会社がほとんどだと思います。そこでAIの出番です。私は「Excelの転記に困っている」という会社には、まずExcelの右側に出てくるCopilotや、Microsoft Copilot Chatに頼んでみてくださいと伝えています。Excelを使っている時点で、Microsoftの製品の中にAIがあるはずだからです。ただし頼むのは「数字を写して」ではなく、「この2つの表を取引先コードでつなぐ式を作って」「このCSVから必要な列だけ取り出す手順を教えて」です。AIには写し方を作らせ、写すのはExcelにやらせます。
毎日届くCSVを決まったフォルダに置くだけで自社の表に追記される、というところまでやるなら、Power Automate(Microsoftを使っている会社)やZapier・n8nなどのワークフロー自動化ツールでつなぎます。この部分は判断が要らないので、AIは使いません。
② PDF・画像で届くもの:AIで読み取り、合計と件数で検算する
取引先の見積書・明細・請求書のPDFは、会社ごとに書式がばらばらです。ここが、AIが一番役に立つところです。ChatGPT・Claude・Geminiなどは、PDFや画像を渡すと、書式が違っても「品名・数量・単価・金額・日付」を見つけて表の形で返してくれます。これが分解図の「探す」をなくす部分です。
ただし、AIの読み取りは100%にはなりません。読み取りを使った公開事例でも、千葉市がAI-OCRで住民税の届出書・申告書を読み取った検証では、読み取り精度は96.25%と報告されています(2019年の検証。出典:NTT東日本 導入事例「千葉市」)。そこで、読み取った結果をそのまま使わず、機械に検算させる仕組みを先に決めておくことが大事です。
- 合計で照合する:明細の金額をExcelで足し、PDFに書かれた合計金額と一致するかを自動で比べる
- 件数で照合する:明細の行数が、PDFに書かれた件数や、前月の行数と大きく違わないかを見る
- 合わないものだけ人が見る:一致したものは確認済み、合わないものだけ赤く色を付けて人が元のPDFを見る
こうしておけば、人が全部を見比べる必要はなくなり、「確かめる」の手間も減ります。月に数枚なら、ChatGPTなどのチャットにPDFを渡して表にしてもらい、Excelに貼って合計を照合するだけでも十分です。毎月何十枚も届くなら、次の章の考え方で仕組みにします。
③ メール本文・申込で届くもの:入口を自社のフォームに変えて、転記そのものをなくす
問い合わせや申込、社内外からの依頼がメールの文章で届き、それを読んでスプレッドシートに写している、という相談も7件ありました。この場合、AIでメールを読ませる前に、まず入口を変えられないかを考えます。Googleフォームや Microsoft Forms で申込フォームを作り、メールの代わりにそこから送ってもらえば、回答は最初から表に入ります。転記の作業そのものが消えるので、AIも自動化ツールも要りません。
取引先や一般のお客様からの自由な文面のメールで、フォームに変えてもらえないものもあります。その場合は、決まった差出人や件名のメールが届いたら、AIで「会社名・担当者・依頼内容・希望日」を抜き出して表に追記する、という仕組みにします。ここは文章を読んで項目を見分けるという判断が入るので、AIを使う意味があります。
3つの解決策のどれを使うかは「頻度・判断・派閥」で決める
ホリエモンAI学校では、業務を自動化する方法を「ワークフロー自動化ツール」「AIエージェント」「コーディングエージェントで自社専用のツールを作る」の3つに分けて考えます。転記の場合、どれを選ぶかは次の3つで決まります。
| 観点 | 転記での考え方 | 向いている方法 |
|---|---|---|
| 頻度 | 年に数回・一度きりの転記(過去データの移し替え、資産の一括登録など) | AIエージェントやチャット型AIに一回やってもらい、人が確認する |
| 頻度 | 毎日・毎月くり返す転記 | ワークフロー自動化ツール、または自社専用のツールにする |
| 判断の要否 | 表から表へ写すだけ(判断が要らない) | AIを使わない。Excelの機能や自動化ツールで写す |
| 判断の要否 | 書式がばらばらのPDFやメールから項目を見分ける(判断が要る) | その部分だけAIに読み取らせ、前後は自動化ツールでつなぐ |
| 派閥 | 会社がMicrosoft・Google・ChatGPT・Claudeのどれを使っているか | Microsoftなら Excel の Copilot と Power Automate、Googleならスプレッドシートと Gemini など、今使っている製品の中で組む |
私が研修でよく伝えているのは、AIは判断が必要なところにだけ使うということです。毎月の決まった作業で判断が要らないなら、ワークフロー自動化ツールだけで足ります。転記の自動化で「全部をAIにやらせよう」とすると、かえって確認の手間が増えます。読み取りが要る1マスにだけAIを入れ、その前後の「届いたら取り込む」「表に追記する」「合計を照合する」は、決まった手順として自動化ツールやExcelに任せてください。
公開事例:請求書の転記を月1時間から「ほぼゼロ」にした例
他社の公開事例を1つ紹介します(当社の受講企業の事例ではありません)。千株式会社は、複数社から届く請求書を手作業で転記しており、月1回・4社分で1時間少々かかっていたうえ、入力ミスの可能性があるため見直しも必要だったそうです。
そこで、ワークフロー自動化ツールのn8nで「請求書PDFの読み取り→スプレッドシートへの転記→ファイル整理」を一連の流れにし、内容の読み取りにだけGeminiのAI読み取りを使いました。Googleドライブを入力元・出力先にしています。その結果、月1時間以上かかっていた作業は「ほぼゼロになりました」と書かれています(出典:千株式会社 note「請求書の転記が月1時間からほぼゼロに」2026年5月)。
この事例は、ここまで書いてきた形そのものです。流れ全体は判断の要らない自動化ツールで組み、書式がばらばらのPDFを読む1マスにだけAIを使っています。月4社分という小さな量でも、毎月くり返す作業なら仕組みにする価値がある、という点も参考になります。
転記の自動化でつまずきやすい3つの落とし穴
- AIに数字を写させて、検算をしていない:読み取りの間違いは、パッと見では気づけません。合計・件数の照合を仕組みに入れずに始めると、後で「どこで数字が変わったのか」を探す手間が、手で写していたときより大きくなります。
- 写し先の表がそろっていない:同じ取引先が「株式会社〇〇」「(株)〇〇」「〇〇」とばらばらに入っている表には、自動で追記しても集計できません。自動化の前に、写し先の列と表記のルールを決めてください。
- 入口を変えられるのに、AIで読み取ろうとする:社内の依頼や、お願いすれば変えてもらえる取引先まで、メールやPDFのまま受けてAIに読ませていないでしょうか。フォームやCSVで受け取れるなら、そのほうが確実で、費用もかかりません。
集めた数字を月末に実績表にまとめる作業まで重い場合は、「データ集計・実績表づくりをAIで自動化する方法」も参考にしてください。
明日から始める4ステップ
- 転記を書き出す:今週、手で写している作業を全部書き出し、「何から(Excel・PDF・メール)」「何へ(自社のどの表・システム)」「どれくらいの頻度で」を1行ずつ書きます。
- 入口を変えられるものを探す:社内の依頼や申込など、フォームやCSVで受け取れるように変えられるものから変えます。これだけで転記が消えるものがあります。
- 表から表への転記は、写し方をAIに作らせる:ExcelのCopilotやチャット型AIに、式や手順を作ってもらい、Excelに写させます。
- PDFの転記は、まず1枚でAI読み取り+合計照合を試す:うまくいき、毎月くり返す量があるなら、自動化ツールで「届いたら取り込む」までつなぎます。
Excel・PDF・メールの転記についてよくある質問
ChatGPTにPDFを渡せば、転記は自動でやってくれますか?
PDFの中から数字を見つけて表の形にするところまでは、かなりの精度でやってくれます。ただし毎回自分でPDFを渡す必要があり、読み取りの間違いもゼロにはなりません。月に数枚ならチャットで十分ですが、毎月くり返すなら自動化ツールと組み合わせ、合計や件数で検算する仕組みにしてください。
マクロやVBAで自動化するのと、AIを使うのは何が違いますか?
マクロは「決まった形の表を、決まった手順で写す」のが得意で、何度やっても同じ結果になります。AIは「書式がばらばらの書類から、必要な項目を見つける」のが得意です。表から表への転記はマクロやExcelの機能、PDFやメールの読み取りはAI、と使い分けます。マクロが書けない場合は、AIにマクロを書いてもらう方法もあります。
転記の自動化は、まず何から始めればいいですか?
手で写している作業を書き出し、「何から何へ」を1行ずつ書くところからです。そのうえで、入口を変えればなくせる転記を先に片付け、残ったものを表・PDF・メールの3つに分けて、上の方法を当てはめてください。
まとめ:転記は「届く形」で分け、AIは読み取りの1マスにだけ使う
Excel・PDF・メールの転記は、どれも同じ「コピペ作業」に見えますが、届く形によって解決策が違います。表で届くものはAIを使わずExcelの機能や自動化ツールで写し、PDFや画像はAIで読み取ってから合計と件数で検算し、メールや申込は入口をフォームに変えて転記そのものをなくします。時間が消えているのは「探す」と「確かめる」なので、探すのはAIに、確かめるのは仕組みに任せ、人は合わなかったものだけを見る形にしてください。
「取引先ごとに書式が違うPDFの転記に毎月何時間もかかっている」「社内で写し間違いが続いている」という状況なら、今の転記の流れを一緒に四角と矢印に書き出し、どこを自動化ツールにし、どこにAIを入れるかを決めるところから進められます。今お使いのExcelやフォームの機能で足りる場合は、その旨を正直にお伝えします。
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