この記事は、社内でAI研修を自分たちで作ろうとしている(または作ってみたが続かなかった)中小企業の研修・DX担当者の、「何をどの順で教えれば、社員が本当に業務でAIを使うようになるのか分からない」という困りごとを解決するために、私がこれまでの研修で見てきたことをまとめたものです。
結論:AI研修は社内で内製できます。ただし「AIツールの使い方講座」を作るのではなく、①社内ルール、②社員一人ひとりの業務の書き出しと「困りごとリスト」、③困りごとを1つずつ解決する実践、の順で組むことが条件です。内製がつまずく原因は教材の出来よりも、「社内で決めたツールの使い方しか教えられず、外の進化から取り残される」ことと、「社内研修には強制力がなく続かない」ことの2つです。
法人向けAI研修の全体像(困りごとの決め方から費用・形式・研修会社選び・定着まで)は、「法人向けAI研修の完全ガイド」にまとめています。
「研修会社に頼むほどの予算はないので、詳しい社員に講師をやってもらおう」「ネットの資料を集めてスライドを作れば何とかなるだろう」と考えて内製を始める会社は少なくありません。実際に、自社でAI研修をやってみたがうまくいかず、ホリエモンAI学校に相談に来られる会社もあります。
この記事では、受講企業400社・受講者4,000人を超えるホリエモンAI学校(自社公開データ)で私が見てきたことをもとに、AI研修を内製するときの準備、カリキュラムの組み方、研修資料の作り方、講師の選び方、そして内製の限界と外部に頼むべき場面を、正直にお伝えします。
AI研修の内製がうまくいかない会社に共通する3つのこと
自社でAI研修をやろうとしてうまくいかず、相談に来られた会社の話を聞くと、つまずき方はだいたい同じです。
1. 社内で決まったツールの使い方しか教えられず、取り残される
内製の研修では、講師役の社員が知っている範囲、会社が契約しているツールの範囲でしか教えられません。AIは数か月単位で新しい使い方が出てきます。社内の誰かが作ったスライドは作った時点から古くなり、社内の研修だけを受けている社員は、外の進化から取り残されてしまうのです。私が内製の研修の一番の弱点だと考えているのはここです。
2. 社内研修には強制感がなく、続かない
同僚が講師の社内研修は、どうしても「出られる人だけ出ればいい」「忙しいから来月でいい」になりがちです。現場は基本的に、今のやり方を変えたくありません。社長や部長が「この研修を受けて、この業務を減らしなさい」とはっきり言わない限り、社内研修は回数を重ねるごとに参加者が減っていきます。
3. 研修の中身が「ChatGPTの使い方」になっている
内製の研修資料でとても多いのが、「ChatGPTへの質問の書き方」「便利なプロンプト集」を中心にした内容です。ですが、ChatGPTに質問することはAI活用のごく一部にすぎません。私自身、1日の仕事でChatGPTに質問している割合は1%もないと思います。社員が明日から楽になるのは、自分の業務の困りごとが解決したときです。困りごとが決まっていないまま使い方を教えても、使う場面がないのです。
内製を始める前に決める3つのこと
研修資料を作り始める前に、次の3つを決めておきます。ここが決まっていないと、どれだけ良い資料を作っても研修は続きません。
1. 何のために研修をするのか(社長の言葉で1〜2文)
「人を増やさずに受注を1.5倍こなせる体制にしたい」「外注している〇〇の作業を社内で回せるようにしたい」など、AIで会社をどう変えたいかを決めます。失敗する会社は、このビジョンと戦略が抜けたまま、いきなり「ツールの使い方」というオペレーションから入っています。数字はまだ仮で構いません。研修の初回で社長自身が受講者に伝えることが大切です。
2. 誰が「受けなさい」と言うのか(強制力の出どころ)
研修担当者がお願いする形では、社内研修は続きません。社長か、受講者の上司である部長が「受ける」「業務を1つ減らす」と指示を出すことを決めておきます。あわせて、AIで時間を減らした人がきちんと評価される仕組み(評価項目に入れる、外注費が減った分を部署の予算に回すなど)を用意できると、強制されなくても続く状態に近づきます。
3. どのAIを、どこまで使ってよいか(社内ルール)
ルールが決まっていないと、研修で教えた使い方を職場で試せません。ゼロから作る必要はなく、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が公開している「生成AIの利用ガイドライン」のひな形などを土台に、自社の状況に合わせて書き換えるのが早道です。
情報漏えいが心配で決められない場合は、私はいつも次の3段階で考えるようお伝えしています。セキュリティがもっとも高いのは、社内のパソコンやサーバーの中だけで動かすAI(ローカルLLM)。次が、Microsoft 365を使っている会社がMicrosoft製品の内側だけでAIを使う方法。その次が、ChatGPTやClaudeなどを会社の契約で使う方法です。どこまで許すかで、研修で教えられる中身(ワークフロー自動化まで、AIエージェントまで、コーディングまで)も変わります。
内製AI研修の組み方|4か月のカリキュラム例
カリキュラムは「やさしい順」ではなく「困りごとを解決できる順」に組みます。ホリエモンAI学校で、お客様から内容を任せていただいたときに組む流れは、だいたい次の通りです。内製の場合も、この順番をそのまま使えます。
| 時期 | 学ぶこと | 研修のゴール |
|---|---|---|
| 1か月目 | 社内ルールと、会社が使っているチャット型AI(Microsoft Copilot、Gemini、ChatGPT、Claudeのどれか)の基礎 | 全員が自分の業務を書き出し、困りごとを5つ挙げられる |
| 2か月目 | ワークフロー自動化ツール(Power Automate クラウド、Zapierなど) | 「転記」「通知」「集計」など、決まった手順の作業を1つ自動にする |
| 3か月目 | AIエージェント、コーディングエージェント(Claude Code、Codexなど) | 手順が決まっていない作業や、小さな社内ツールを1つ作る |
| 4か月目以降 | 困りごとリストから「私はこれを解決します」と1つ選んで実践 | 減った時間・費用を数字で報告し、次の困りごとへ進む |
ポイントは、1か月目のうちに「困りごとリスト」を作ってしまうことです。2か月目以降に学ぶ道具は、すべてこのリストの困りごとを解決するためにあります。リストがないまま道具だけ学ぶと、3か月目には「便利そうだったけど、使い道がない」状態になります。
会社のIT環境(Microsoft中心か、Google中心か)によって、2か月目・3か月目の中身をどう変えるかは、次の記事で詳しく解説しています。
📌詳しくは「【2026年最新】生成AI研修の内容とは?何をどの順で学ぶか|5段階のカリキュラム例と自社に合わせる方法」へ
研修資料の作り方|スライドより「ワークシート」を先に作る
内製の担当者が一番時間をかけてしまうのが、AIの説明スライドです。ですが、AIの機能の説明はネット上にいくらでもあり、すぐに古くなります。社内で作る価値があるのは、自社の社員が自分の業務を書き出し、困りごとを見つけるためのワークシートです。私たちの研修でも、この3つの手順で進めています。
ワークシート1:自分の業務を四角と矢印で書く
自分の1日、1週間、1か月の仕事を、四角(作業)と矢印(次の作業へのつながり)で紙やホワイトボードに書いてもらいます。「お客様からメールが来る→内容をExcelに転記する→見積もりを作る→上司が確認する→送る」のような流れです。口では「もう効率化している」と言っていた人も、文字にしてみると、思った以上に時間をかけていたと気づくことがよくあります。たとえば1日30回メールを確認している人は、1回3分でも1日90分を使っています。書き出すことで、初めて困りごとが見えてきます。
ワークシート2:面倒な作業・変えたい作業を5つ書く
書いた業務の流れを見ながら、「面倒くさい」「変えたい」と思う作業を箇条書きで5つ挙げてもらいます。それぞれに、1回あたりの時間と、月に何回やっているかを書き添えると、どれから手をつけるべきかが見えます。これを全員分集めたものが、会社の「困りごとリスト」です。ホリエモンAI学校では、受講企業と困りごとリストを共有しており、全社合わせて今日時点で2,700行ほどになっています。
ワークシート3:困りごと1つを、解決の方法に当てはめる
困りごとを1つ選び、次の3つの方法のどれで解決するかを決めます。決めたら、ChatGPTなどのチャット型AIと相談しながら、「何を入力して、何が出てくればいいか」を書いた簡単な仕様書にまとめます。
- ワークフロー自動化:手順が毎回同じ作業(転記、通知、集計など)。AIを使わずに自動化できることも多くあります。
- AIエージェント:毎回少しずつ判断が必要な作業(問い合わせの仕分け、資料の下書きなど)。
- コーディングエージェント(Claude Codeなど):既製のツールでは合わない作業。自社専用の小さなツールを作って解決します。
この3つのワークシートがあれば、研修の日の大半は「説明を聞く時間」ではなく「自分の業務を手で書き、解決策を考える時間」になります。説明スライドは、社内ルールと各ツールの最初の操作だけに絞れば十分です。
講師は「AIに一番詳しい人」より「ゼロから自分で解決した人」
内製の講師に、社内のエンジニアや情報システム部の人を選ぶ会社は多いと思います。ですが、ホリエモンAI学校では、あえてエンジニアの人に講師をやらせていません。AIの専門家やエンジニアが教えると、どうしても話が難しくなるからです。私たちの講師は、自分も未経験から講座を受けて、実際に作れるようになった人です。わからない人の気持ちがわかるので、説明がわかりやすくなります。
内製でも同じ考え方が使えます。講師には、非エンジニアで、自分の業務の困りごとを1つAIで解決した経験がある社員を選んでください。「私はこの作業をこうやって月〇時間減らした」という同僚の実例は、どんなスライドよりも受講者に伝わります。そうした社員がまだいなければ、まず1〜2人がその経験を積むところから始めるのが近道です。
内製の限界|外部に頼んだほうがいい3つの場面
ここまでの準備ができる会社なら、AI研修の多くは内製で進められます。一方で、次の3つは内製では補いにくい部分です。
| 内製の限界 | 起きること | 外部の使い方の例 |
|---|---|---|
| 新しい使い方への追従 | 社内で決めたツールの範囲から出られず、教材が古くなる | 新しい道具(AIエージェント、コーディングエージェントなど)の部分だけ外部の講座を使う |
| 強制力と継続 | 同僚が講師だと「忙しいから来月」になり、参加者が減っていく | 外部との約束(期日・面談日)を作り、社長の指示とセットで回す |
| 一人ひとりの困りごとへの答え | 受講者の「この業務はどうすれば?」に社内の誰も答えられず止まる | 月1回の個別面談など、具体的な困りごとを相談できる場を外に持つ |
研修のあとに社員がAIを使い続けるための仕組み(受講後90日でやること、効果の測り方)は、内製・外部を問わず必要です。次の記事で詳しく解説しています。
📌詳しくは「【2026年最新】AI研修の効果が出ない・定着しない原因は「研修のあと」にある|受講後90日でやる5つのことと効果の測り方」へ
外部の研修会社を比べるときに、内製では足りない部分を補ってくれるかを確かめる質問は、次の記事にまとめています。
AI研修の内製に関するよくある質問
AI研修は社内で内製できますか?
できます。社長が研修の目的と「受けなさい」という指示を出し、社内ルールを決め、社員一人ひとりが自分の業務の困りごとを書き出すところから始めれば、基礎の部分は社内で十分に教えられます。ただし、新しい使い方への追従と、受講者の個別の困りごとへの回答は社内だけでは補いにくいため、その部分だけ外部を使う会社も多くあります。
社内向けAI研修の研修資料には、何を入れればいいですか?
AIの機能説明のスライドより、社員が自分の業務を四角と矢印で書き出すシート、面倒な作業を5つ挙げるシート、困りごとを「ワークフロー自動化・AIエージェント・コーディングエージェント」のどれで解決するか決めるシートの3つを先に作ってください。説明スライドは、社内ルールと各ツールの最初の操作に絞れば十分です。
社内のAI研修の講師は誰に任せればいいですか?
AIに一番詳しいエンジニアより、非エンジニアで、自分の業務の困りごとを1つAIで解決した経験のある社員が向いています。わからない人の気持ちがわかり、「私はこの作業をこう減らした」という実例で話せるからです。そうした社員がいなければ、まず1〜2人がその経験を積むところから始めてください。
まとめ:AI研修の内製は「使い方講座」ではなく「困りごとリスト」から作る
AI研修は社内で内製できます。始める前に、研修の目的、誰が受講を指示するか、どのAIをどこまで使ってよいかの3つを決め、1か月目に全員の困りごとリストを作り、2か月目以降はその困りごとを解決する道具を順に学ぶ形で組んでください。研修資料はスライドより、業務を書き出すワークシートを先に作ります。講師は、自分で困りごとを解決した非エンジニアの社員が向いています。そのうえで、新しい使い方への追従、強制力、個別の困りごとへの回答の3つが内製の限界です。
「社内で研修を始めたが、参加者が減って続かない」「社員の困りごとに社内の誰も答えられない」「内製でどこまでやり、どこを外に頼むべきか判断したい」という場合は、無料相談で現状をお聞かせください。自社で十分できる内容であれば、その進め方もお伝えします。