この記事は、社員30〜100名ほどの中小製造業の社長・工場長の、「製造業のAI活用事例を調べても大企業の外観検査や予知保全の話ばかりで、自社のどこから手をつければいいか分からない」という困りごとを解決するために、私がこれまで400社・4,000人の研修で見てきたことをまとめたものです。
結論:中小製造業のAI活用は、検査装置や設備のような大きな投資からではなく、見積・受発注・日報・図面や過去資料の検索・在庫や工程の確認といった「事務所と現場の間の記録・転記・探しもの」の業務から始めると成果が出やすくなります。業務を四角と矢印で書き出し、面倒な作業を5つ選び、「ワークフロー自動化」「AIエージェント」「コーディングエージェントで自社ツールを作る」の3つから解決策を選びます。
最初にお伝えしておくと、ホリエモンAI学校は製造業に特化した会社ではなく、製造業ならではの専門ノウハウを売りにしているわけでもありません。私たちがやっているのは、どの業種でも同じ「困りごとを書き出して、業務を分解して、自動化する」ことです。この記事では、その進め方を製造業の業務に当てはめて、書き出し方・解決策の選び方・他社の公開事例の順に説明します。
製造業のAI事例が「うちには関係ない」と感じる理由
製造業のAI活用でよく紹介されるのは、カメラで不良品を見分ける外観検査や、機械の故障を前もって知らせる予知保全です。どちらも効果は大きいものの、設備やデータの準備が必要で、社員数十名の会社がいきなり取り組むのは簡単ではありません。事例を読んで「うちには関係ない」と感じるのは自然なことです。
一方で、中小の製造業で毎日時間を取られているのは、もっと地味な仕事です。ホリエモンAI学校では、受講企業と「困りごとリスト」を共有し、社員の方に自分の業務で面倒なこと・変えたいことを書いてもらっています。業種を問わず集まった1,705件を分類すると、製造業の事務所や現場でもよく出てくる業務に、次のような困りごとが並びます(件数は私たちの困りごとリストでの件数で、製造業以外の会社の分も含みます)。
- 見積書の作成・チェック・送付に時間がかかる(42件)
- 手書き・紙・PDFの内容をデータ入力している(35件)
- 日報・日誌・作業記録の入力に時間がかかる(32件)
- ノウハウ・過去事例・進捗を蓄積して共有したい(26件)
- 在庫管理・棚卸に手間がかかる(25件)
- 図面・設計書のチェック・作成に手間がかかる(23件)
- 工程表・進行管理の作成と更新が手間(13件)
リストの中には「図面と数量計算書の整合チェック」「部品発注時の確認に手間がかかる」「工程変更が他ツールに連動しない」「発注判断が感覚頼りで言語化したい」といった、製造の現場でもそのまま起きていそうな相談も含まれています。AI活用の入り口は、検査や保全よりも、こうした記録・転記・探しものの業務にある、というのが私の考えです。
まず業務を四角と矢印で書き出す(見積業務の例)
製造業の方から「うちの業界ではどのAIを使えばいいですか」と聞かれることがありますが、私の答えは「まず困っていることを書いてください」です。困りごとを書いてもらったら、それを一つひとつの作業に分解します。たとえば受発注をどうにかしたいなら受発注の流れを書き、それを自動化していきます。在庫を見える化したいなら、たとえば倉庫にWebカメラを付けてAIに見張らせる、というように、業務の流れの中に仕組みを組み込んでいきます。
図面を受け取って見積を出している会社なら、見積業務は次のように書き出せます。
- 取引先からメールやFAXで図面と見積依頼が届く
- 図面を見て、過去に似た品物を作ったことがあるか探す
- 材料・加工の工程・時間を見積もる
- 単価を計算し、見積書を作る
- 上司が確認して、取引先に送る
- 受注・失注を記録する
四角と矢印で書くと、「2の過去品探しがベテラン1人に集中している」「4の計算は毎回同じなのに手作業」「6はどこにも記録していない」のように、どこが痛いのかが社員自身の目で見えるようになります。口では「そんなに時間はかかっていない」と言っていた作業が、書き出すと一番時間を食っていた、ということは珍しくありません。この中から面倒な作業を5つ選び、1つずつ解決策を決めます。
3つの解決策の選び方(製造業の例)
書き出した作業は、次の3つのどれかで解決します。どれを選ぶかは、主に3つの観点で決めます。1つ目は頻度で、一度きりの作業ならAIエージェントに1回やってもらえば済みます。2つ目は判断の要否で、毎回同じ手順で判断が要らないならAIを使わずワークフロー自動化で十分です。3つ目は、会社が使っているツールの「派閥」(Microsoft・Google・ChatGPT・Claudeなど)で、使える道具がそこで決まります。
| 解決策 | 向いている作業 | 製造業での例 |
|---|---|---|
| ワークフロー自動化 | 毎回同じ手順で、判断が要らない作業 | 見積依頼のメールが届いたら案件表に登録し担当者に通知する/工程表が変わったらチャットに自動で知らせる/見積書の単価計算を表で自動にする |
| AIエージェント | 文章や資料を読む・探す・まとめる・判断する作業 | 過去の見積・図面・不具合報告を探して、似た品物の情報をまとめる/音声で話した作業内容を日報の文章に整える |
| コーディングエージェントで自社ツール作成 | 既存のツールでは自社のやり方に合わない作業 | 紙とペンの作業記録をスマホで入力できる社内ツールにする/在庫や工程の状況を一覧できる自社専用の画面を作る |
AIを使うこと自体が目的ではありません。Microsoft 365だけを使う会社なら、Power Automate クラウドによるワークフロー自動化だけで減らせる手作業も多くあります。
📌受発注・在庫の業務の書き出し方は「小売業・卸売業のAI活用|受発注・在庫・売上予測の困りごとから始める進め方」でも詳しく説明しています。FAX注文の扱い方は製造業でも同じです。
「田中さんしか分からないExcel」はAIに読ませる
製造業で特に多いと感じるのが、原価計算や生産計画を代々引き継がれた「職人技のExcel」で回している会社です。どのマクロで何が動いているか誰も分からず、何か起きるたびに「転勤した田中さんを呼んでこい」となる。こうしたExcelは、今ならExcelの横に出せるMicrosoft CopilotやClaudeに読ませると、何をしている表なのかを説明してもらえます。
ごちゃごちゃの表やマクロを読む・書き直す・どこがおかしいか調べる、という作業はAIがとても得意です。いきなり自動化しなくても、「属人化したExcelの中身をAIに説明させて、手順書に起こす」だけで、引き継ぎの不安はかなり減ります。
現場の記録は「紙とペン」から「スマホと音声」へ
作業日報や点検記録を紙に書き、事務所で誰かがパソコンに打ち直している会社も多いと思います。私たちのClaude Codeの研修(1日Camp)で社員の方が最初に作るツールは困りごとによってばらばらですが、多いのは「紙とペンでやっていた作業をスマホで誰でもできるようにする」「机に戻ってやっていた業務報告を、スマホに話すだけで済むようにする」といった、現場の手触り感のある困りごとを解決するものです。
現場の人がパソコンを使わない製造業では、記録の入口をスマホと音声に変えるだけで、転記の仕事そのものがなくなります。社員が自分で作った小さなツールは、現場のやり方に合わせて直しやすいのも利点です。
📌条件を守った表をAIに作らせる例は「介護施設のシフト作成をAIで自動化する方法|Geminiで条件を守ったシフト案を作る3ステップ」へ。業種は違いますが、勤務表・人員配置表づくりの考え方は製造の現場にも使えます。
他社の公開事例:見積・問い合わせ・日報
製造業の会社がAIで見積や記録の手間を減らした例は、ツール提供会社などの公開事例にもあります(いずれも当社の受講企業ではなく、他社の公開事例です)。
- アルマイト処理の製造業(イズミテクノ、公開事例):年間約1万件の見積業務に多くの工数がかかり、ノウハウも属人化していたため、図面や仕様データを検索できる製造業向けAIデータ基盤を導入。「見積に関する内部コストはおよそ50%削減」と紹介されています。ツール提供会社の発表です。(出典:キャディ株式会社 プレスリリース)
- 特殊ホースの製造業(共栄産業、公開事例):取引先からの問い合わせに答えられる詳しい社員が限られ、業務が属人化していたため、過去の見積データなどを蓄積して回答や見積書作成に使う生成AIの仕組みを導入。問い合わせ対応と見積書作成の効率化、属人化の低減につながったと紹介されています(数値の記載はありません)。(出典:TIS ニュースリリース)
- 鋼材加工・販売メーカー(社名非公開、公開事例):工場内のカメラ映像を後日担当者が早送りで確認して日報を作っていたため、映像から日報を作るAIシステムを導入し、日報作成の手間を減らしたと紹介されています(数値の記載はありません)。(出典:フォワード 製品ページ)
どの例も、出発点は「見積に時間がかかる」「詳しい人に質問が集中する」「日報づくりが手間」という具体的な困りごとです。製品名を真似するより、自社のどの業務が同じ痛みを抱えているかを書き出す方が先です。
よくある質問
社員数十名の中小製造業でも、AIは使えますか?
使えます。外観検査や予知保全のような設備投資型のAIでなくても、見積・受発注・日報・過去資料の検索といった事務所と現場の間の業務なら、今あるパソコンとスマホ、普段使っているツールの範囲で始められます。まず業務を書き出し、面倒な作業を5つ選ぶところから始めてください。
図面や技術情報をAIに入れても大丈夫ですか?
会社の環境とルール次第です。Microsoftの環境の中だけで使うなら漏れる心配はほとんどありませんし、それでも不安なら外部のAIにつながないローカル環境のAI(ローカルLLM)で動かす方法もあります。漏えいの多くはAIそのものより、更新をしていない・管理者がいないといった一般的なセキュリティの問題なので、まず社内でどのAIをどこまで使うかのルールを決めることをおすすめします。
製造業向けのAIツールを先に選んだ方がいいですか?
おすすめしません。ツールを先に選ぶと、ツールでできることに業務を合わせることになり、本当に痛い作業が残りがちです。困りごとを書き出し、作業に分解してから、ワークフロー自動化・AIエージェント・自社ツール作成のどれが合うかを選び、その結果として製品が必要なら導入する、という順番が失敗しにくい進め方です。
まとめ
中小製造業のAI活用は、大企業の検査や保全の事例を追いかけることではなく、見積・受発注・日報・図面や過去資料の検索・在庫や工程の確認といった、毎日の記録・転記・探しものの手間を一つずつ減らしていくことです。業務を四角と矢印で書き出し、困りごとを5つ選び、頻度・判断の要否・使っているツールを見て3つの解決策から選ぶ。この順番なら、専門の担当者がいなくても現場主導で進められます。
📌AI研修の選び方・進め方の全体像は「法人向けAI研修の完全ガイド|7つの順番で決める進め方と費用・形式・定着まで10記事で解説」へ
「見積や日報の手作業を減らしたいが、自社のどの業務から手をつければいいか分からない」「AIを導入したいが、社内に進められる人がいない」という状況なら、ご相談ください。ホリエモンAI学校の法人プランでは、毎月の面談で御社の困りごとリストを一緒に整理し、どの方法で解決するかまで伴走します。製造業ならではの専門知識が必要な部分は御社の方が詳しいので、私たちは業務の分解と自動化の方法をお手伝いします。