この記事は、営業部にChatGPTを配ったのに提案書の下書きやメールの言い回しにしか使われず、「営業の残業も、商談後の事務作業も減らない」と感じている中小企業の社長・営業責任者の困りごとを解決するために、私がこれまで400社・4,000人の研修で見てきたことをまとめたものです。
結論:営業でChatGPTの効果が出るのは、商談そのものではなく、商談の前後にある「調べる・まとめる・書く・送る」の作業です。まず営業の1件の流れを書き出し、1回きりの作業はChatGPTに頼み、毎回くり返す作業(商談後のお礼メール、営業リスト作り、見積の作成など)はチャットではなく自動化の仕組みにします。チャットで質問するだけで止まっている会社は、この切り分けをしていないことがほとんどです。
📌部署ごとのChatGPTの使い方の全体像は「法人向けChatGPT活用ガイド|部署別の使い方と導入5ステップ」で解説しています。この記事は営業部に絞り、どの作業をどう減らすかを具体的に書いています。
営業の困りごとは「商談の外」にある
「ChatGPTで営業トークを考えさせよう」「提案書を作らせよう」から始める会社は多いのですが、私たちが受講企業に書いてもらっている「困りごとリスト」を見ると、営業の困りごとの中心は商談の外にあります。受講企業から集まった困りごと1,705件を似たもの同士でまとめると、営業に関わるものは次のように出てきます。
| 困りごと(受講企業の困りごとリストより) | 件数 |
|---|---|
| 議事録づくりに時間がかかる(商談・社内会議を含む) | 51件 |
| 見積書の作成・チェック・送付に時間がかかる | 42件 |
| 営業リスト作成・リード獲得・追客に手間がかかる | 19件 |
| 営業・顧客データの分析と施策づくりに手間がかかる | 13件 |
| 商談準備・提案・フォローメールに時間がかかる | 8件 |
出典:ホリエモンAI学校の受講企業が記入した困りごとリスト(1,705件を98種類にまとめた社内集計、2026年10月時点)。
「トークがうまくならない」という困りごとはほとんど出てきません。出てくるのは、議事録、見積、リスト、お礼メールといった、商談の前後で営業担当者の時間を奪っている作業です。ChatGPTを営業で活用するなら、ここから手をつけるのが近道です。
最初に、営業1件の流れを四角と矢印で書く
ホリエモンAI学校では、AIの使い方より先に、業務を四角と矢印で書き出してもらいます。病院で「頭が痛い」と症状を言うのが先で、薬の名前から入らないのと同じです。営業なら、たとえば次のような流れになります。
営業リストを作る → アポを取る → 商談の準備をする → 商談 → 議事録をまとめる → お礼メールと資料を送る → 見積を作る → 追いかける(追客) → 顧客管理に記録する
この9つの四角のうち、「面倒な作業」「時間がかかる作業」を営業担当者に5つ書いてもらいます。書けない人には、月1回の面談で「普段どんな仕事をしていて、何が面倒ですか」と問診のように聞いています。書き出すと、多くの会社で時間を取られているのは「商談のあと」と「リスト作り」と「見積」の3か所だと分かります。
ChatGPTに頼めば済む営業の作業4つ
四角のうち、毎回中身が違い、1回ずつ人が考える作業は、ChatGPTに話しかけるだけで十分に楽になります。営業部で最初に試すなら次の4つです。
1. 商談前:相手の会社の公開情報から質問案を作る
相手企業のホームページの会社概要や事業内容を貼り付け、「この会社の社長に初回の商談で聞くべき質問を10個、聞く順番つきで出してください。こちらは〇〇を提供している会社です」と頼みます。準備の時間が短くなるだけでなく、聞き漏れが減ります。入れるのは公開されている情報だけにしてください。
2. 商談後:メモから「決まったこと・宿題・次の一手」を整理する
商談中の走り書きメモや文字起こしを貼り、「決まったこと、こちらの宿題、相手の宿題、次回の日程候補に分けて整理してください」と頼みます。そのまま社内の報告や顧客管理への記録に使えます。
3. 提案書・営業資料の骨子を作る
「この相手の困りごとは〇〇。提案の流れを、表紙・課題・解決策・費用・導入の流れの5枚の構成で出してください」と骨子を作らせます。ChatGPTはPowerPoint形式で出すこともできますし、Canvaと組み合わせたり、Claudeの資料作成機能を使ったりする方法もあります。どれを使うかは好きなものでかまいません。
4. 断り・値引き・催促など、書きにくいメールの下書き
「値引きを求められたが応じられない。関係を悪くしない断りのメールを、代わりに提案できる内容を添えて書いてください」のように、状況と目的を書いて頼みます。気が重くて後回しになるメールほど、下書きがあるだけで手が動きます。
📌会社のChatGPTを契約したあと、社員が業務で使い始めるまでの設定と手順は「ChatGPT Businessの使い方|契約後に管理者がやる3つの設定と、社員が業務で使い始める手順」で解説しています。
チャットでは足りない、毎回くり返す営業の作業3つ
ここが一番大事なところです。上の4つは便利ですが、毎回ChatGPTの画面を開いて貼り付けて頼む、という手間は残ります。商談が1日に何件もある会社では、毎回くり返す作業をチャットでこなしても、営業の時間はあまり減りません。私は、ChatGPTを勉強したのに業務改善と結びつかないという相談を本当に多く受けますが、その多くはこの「毎回くり返す作業」をチャットで続けているケースです。
業務の改善方法は、ワークフロー自動化(決まった流れを自動で回す)、AIエージェント(判断が入る作業をAIに任せる)、コーディングエージェント(自社専用の小さなツールを作る)の3つしかありません。営業でよく出る作業に当てはめると、次のようになります。
1. 商談後の議事録・お礼メール・資料送付 → ワークフロー自動化
議事録ツールは入れているのに、過去のやり取りを確認してお礼メールを書き、資料を添付するのは手作業で、なんだかんだ1件30分かかっている。これは私が受講企業でとてもよく見る困りごとです。解決策は、オンライン会議が終わったら、議事録→要約→要点をまとめた画像1枚→お礼メールの下書き、までを自動で作る流れにすることです。営業担当者は中身を確認して送るだけになります。ピタゴラスイッチのように、1つ終わると次が自動で動く仕組みです。
2. 営業リストづくり → AIエージェントか、自社のツール
「神奈川県 建築会社」と検索すれば一覧は出ます。面倒なのは、各社のホームページで住所・電話番号・メールアドレス・規模を1社ずつ探して、何百件も表にまとめることです。リストを買う会社もありますが、たとえば1件50円なら3,000件で15万円、毎月買えば毎月かかります。それなら、AIに調べてまとめてもらえばいい。そのつどAIエージェントに頼んでもいいですし、営業リストを作るツールを自社で作ってしまってもかまいません。私自身も、自動で営業するツールや顧客管理のツールを自分で作って使っています。
3. 見積の作成 → 自社のツール(またはワークフロー自動化)
営業担当者が自分で見積を作らず、営業事務や管理部に頼んでいる会社では、「商談中に5分で欲しいのに、管理部は待機していられないし、依頼に気づかないこともある」という困りごとが起きます。ある会社では、チャットツールに決まった文字を打つと見積が自動で作られる仕組みにして、営業担当者が数十秒で見積を受け取れるようになりました。
どれを選ぶかは、①その作業の頻度、②人の判断が必要か、③会社で使っているツールの系統で決めます。たとえば会社がMicrosoft 365で統一されていて、AIエージェントを使わせない方針なら、Power Automateでのワークフロー自動化だけでも、商談後の流れはかなり自動にできます。AIを使う必要がない場合もあります。
📌3つの手段の違いと、AIエージェントに任せる業務の見分け方は「AIエージェントとは?中小企業が導入すべき業務の見分け方」へ
📌経理・総務の請求書・仕訳・入金確認を同じ考え方で減らす方法は「ChatGPTの経理・総務での活用」へ
営業部で始める4ステップ
明日から動くなら、次の順番で進めてください。
| ステップ | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1. 書き出す | 営業担当者1人に、1件の商談の流れ(リスト作り〜顧客管理への記録)を四角と矢印で書いてもらう | 30分 |
| 2. 選ぶ | 面倒な作業を5つ書き、1か月に何回あるか、1回何分かかるかを横に書く。回数×時間が一番大きいものを1つ選ぶ | 30分 |
| 3. チャットで試す | 選んだ作業を、上の「ChatGPTに頼めば済む4つ」の頼み方で1週間試す。入れてよい情報は会社のルールに従う | 1週間 |
| 4. 自動化に回す | 毎回くり返していて、貼り付けて頼む手間そのものが重いと分かったら、ワークフロー自動化・AIエージェント・自社ツールのどれにするか決める | 1〜2か月 |
ステップ3の前に、必ず会社のアカウント(ChatGPT Businessなど)で使ってください。お客様の名前や金額を、社員の個人アカウントに入れる状態は避けるべきです。理由と切り替え方は「ChatGPTの法人と個人の違い|個人アカウントの業務利用のリスク3つ」で解説しています。入れてよい情報の決め方は「生成AIの社内ルール(ガイドライン)の作り方」へ。
人事・採用部門で同じ考え方を使う例は「ChatGPTの人事・採用での活用|応募者対応の自動化と「AIに決めさせない」2つの線引き」で解説しています。
ChatGPTの営業での活用についてよくある質問
お客様の会社名や商談の内容をChatGPTに入れてもいいですか?
会社が契約した法人向けのアカウントで、社内ルールで入れてよいと決めた範囲なら入れてかまいません。ChatGPT Businessは初期設定で業務データを学習に使わない設定になっています。社員の個人アカウントには入れないようにし、どこまで入れてよいかを会社として先に決めてください。
ChatGPTが書いた営業メールを、そのままお客様に送ってもいいですか?
下書きとして使い、必ず営業担当者が読んで直してから送ってください。商談で話していないことや、約束していない条件が書かれていることがあるからです。自動化する場合も「下書きまで自動、送るのは人」にしておくと安心です。
営業担当者がChatGPTを使ってくれません。どうすればいいですか?
使わないのは、使っても自分の仕事が楽にならないからです。「ChatGPTを使え」と言う前に、営業担当者が一番面倒に感じている作業を1つ聞き出し、それが楽になる形で渡してください。毎回くり返す作業なら、チャットを使わせるより、自動で下書きが届く仕組みにした方が早く定着します。
📌社員が生成AIを使わない原因と立て直し方は「社員が生成AIを使わないのはなぜ?」へ
まとめ:営業のChatGPT活用は「商談の前後」から
営業でChatGPTの効果が出るのは、商談の前後にある調べる・まとめる・書く・送るの作業です。営業1件の流れを四角と矢印で書き出し、1回ずつ考える作業はChatGPTに頼み、毎回くり返す商談後の作業・営業リスト・見積は、ワークフロー自動化、AIエージェント、自社ツールのどれかで仕組みにしてください。チャットで止まっている会社ほど、この切り分けで営業の時間が変わります。
「営業部にChatGPTを配ったが、何も変わっていない」「商談後の作業や見積の待ち時間をなくしたいが、どこから手をつければいいか分からない」という状況なら、営業の業務の書き出しから一緒に進められます。
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